小説 ワインの達人

作 松浦和韻

 

坂間明彦が目を覚ますとベッドサイドに怪しい男がじっと立っていた。

「だっ、誰だ!どうやって入ってきたんだ」

寝惚けながら、パニックに陥った坂間はそう叫んだつもりだが実際には声がうまく出たかどうかは怪しいもんだ。

「まあ、そう慌てるでない。わしは中国四千年の歴史を踏襲する中華三昧、じゃなかった仙人じゃ。日本では岩崎と名乗っておるがの。人はわしのことを感動仙人と呼んでおる。」

「なっ、何だと?勘当仙人だぁ。さては中国から勘当された不良だな。何だって俺んちにこんな朝っぱらからやってくるんだ。びっくりするじゃないか!」

「何が朝のもんか。もうおてんとう様はとっくに真上に昇っておるぞ。しかもわしは不良なんかじゃない。ちゃんとインターホンを押したのにお主は出てこない。そこで仕方なく中国伝統の秘技、ピッキングという奴で鍵をちょいちょいといじって入ってきたのだ。」

「あーっ!やっぱり不良じゃねえか。この勘当者!」

「だから違うと言っておろうが。勘当ではない。人を感動させる感動仙人じゃ。ったくしょうがない奴だな。ワインについては達人と聞いてやってきたのに、この体たら く、部屋中酒臭くってかなわん。」

「放っといてくれ。感動か、勘当か、強盗か何か知らんが人の家にいきなり上がりこんで酒臭いも何もあるか!俺はワインの道を極めるために、日夜二日酔いと戦いながら命を張って飲んでるんだ。まあ、言ってみれば求道者だ、高邁な酒豪、じゃなかった修行をしているんだ。この、中華三昧め。」

「まったく口の悪い男じゃのう。しかし、今日お主の所に参ったのはまさにそのことよ。

酒豪者、じゃなかった修行者としての坂間明彦に用があって参ったのじゃ。」

「?????」

「先程もいうた通り、わしは仙人じゃ。仙人にも色々あるが。わしの得意分野は人の心を思うように動かすこと。つまり感じさせ、動かす。わしは人を感動させる術を極めた結果、感動の達人を経て仙人に昇格した者じゃ。」

「何だかよく分からんけど、その仙人が何だって俺に用があるんだよ?」

「よう聞いた。実は中国も開放化政策とやらで最近は若い連中がどんどん都会に出て行ってしまい、わしらのような仙人になって一旗上げてやろうなんて考える奴等がめっきり少なくなってしまった。そこでわしら若手が手分けして世界中から有望な仙人 候補をリクルートしようとしているわけじゃ。お主、リクルートって知っておるか?」

「馬鹿にすんじゃないよ。俺だってリクルートされて今の会社に入ったんだ、リクルートぐらい知ってらぁ。しかしライフプランナーならいざ知らず、仙人のリクルートなんて聞いたことがねえ。一体こりゃどういったことなんだ?」

「ぬふふふ。よいところに気付いたのう。実は仙人は誰でもがなれるもんじゃない。ごく少数の才能ある人間だけが厳しい修行を経てようやく辿り着ける、言ってみれば人間の進化の最終形じゃ。ところが最近では厳しい修行とやらはどうやら流行らぬらしくて、『仙人募集』のチラシを作って撒いても、『仙人養成講座』を開講しても、さっきも言った通り、人が集まらんのじゃ。そこで考えたのがこうしたリクルートじゃ。仙人になる為にはその前段階として達人の道を通らなければならん。仙人そのものは非常に数が少ないが、世の中には達人の域にまで達している者はそこそこにはおる。わしらはこの達人達をさらに鍛え上げてわしらの後継者たる次世代の仙人を養成することにしたのじゃ。」

「するってえと何かい。俺がワインの達人だってことをどっかから聞きつけてここにやってきたってわけかい?一体どこからそんな情報を聞き出したんだ。」

「くくくく、仙人をなめてはいかん。インターネットじゃよ。」

「何っ!仙人がインターネットを使うのか!ずいぶん進んでるじゃねえか。あながち俺等がイメージしてる仙人なんてもんよりは進んでるじゃねえか。」

「まあな。くふふふ。」

感動仙人岩崎は坂間の顔をじっと見ながら怪しげな笑いを浮かべた。

(ふう、やばいやばい調子に乗ってるとバレちまう。まさか赤坂のワインバーの幸ちゃんに聞いたとも言えんからの。それにしても幸ちゃんはいい女じゃな。今晩また行ってみるか。てへへへ。)

暫く二人の周りに沈黙の時間が流れた。

「仙人っ!」

突然呼びかけられて感動仙人は我に返った。

「何じゃ?」

「おっ、俺も仙人になれるってか?そうゆうことか?」

「うむ、まあ修行次第じゃがな。ただお主等、達人は一般人よりはるかに仙人に近いところにおるわけじゃから、わしの教えに従ってキチンキチンと精進すれば必ずやそう遠くない将来『ワイン仙人』として華々しくデビューすることはできるであろうな。」

「せっ、先生!いやもとい、仙人先生!」

「何じゃ、弟子入りする気になったのか?」

「はい。しかしデビューするってどこにデビューさせていただけるんですか?」

「まぁ、そう焦るでない。それはおいおいわしがちゃんと考えてやる。」

(くっ、こいつやはり只者ではないな。二日酔いで多少いい加減なことを言っての分りゃしないと思ってたが意外と鋭いとこを突いてきおる。今日の所はここらで引き上げるかの。)

「坂間よ。」

「はい、先生!」

「お主の決意、しかと受け止めた。しかし今日のところはもう去ぬ。それからわしのことはパンピーにはバレてはならぬゆえ、岩崎さんと呼ぶのじゃ。」

「はい、先生。じゃなかった岩崎さん。しかしパンピーって何ですか?」

「あっ、そっ、それはじゃな仙界用語で一般人のことじゃ。これが語源でイッパンピープル、つまりパンピーと最近では一部使われておるようじゃの。」

(しっかし、こいつほんとに細かいことに気付く奴だな。)

「では、去ぬぞ。今日のこの出逢いを忘れるではないぞ。」

「はいっ。」

坂間が深々と頭を下げてから顔を上げるとそこにはもう感動仙人の姿はなかった。

坂間が感動仙人と出逢ってから数日が経った。出逢いの印象は強烈であったのだが、その後何の音沙汰もないので、ひょっとしたらワインの強烈な二日酔いがもたらした白日夢だったのかと思い始めていた。仕事から戻り、何時ものように郵便受けをチェックするとそこには他の郵便物に混ざってひときわ目をひく、ド派手な封書が一通入っていた。まっ黄色の封筒の周囲には真紅のラーメン丼模様(幾何学的なアレである)が入り、真中には達筆の隷書で「達人坂間明彦殿」と書かれている。なぜか切手はどこにも貼ってなく、住所すら書かれてはいない。

坂間にはピンときた。

「仙人だ。」

裏面のこれまためちゃくちゃ派手な唐獅子と、昇り竜が互いに牽制し合うかのような絵柄を見るに及んで彼の直感は確信に変った。家のドアを開けるのももどかしく封を切る。

『明日のために…』

この書き出しはどこかで読んだことがあるぞと思いつつ、目は次々と文章を追う。

『…ということで特設達人スタジアムで、達人対決を行うこととする。ついては明日の晩赤坂のワインバー山崎に20時までに来るように…』

「なんだぁ、これは。達人対決だってどっかで聞いたことがあるぞ。それにワインバー山崎って幸子さんの店だよな。何だってあそこが特設スタジアムになんかならなきゃいけないんだ。」

しばし坂間は呆然とし、そして靴のまま家に入ったことに気付いてハッと我に返った。

「しかし、これでこの間の岩崎仙人との出逢いが夢なんかじゃなかったことがハッキリしたわけだ。でも一体達人対決って何なんだ?そもそも俺はこの年になるまで人と対決なんてしたことがないのに…。」

思いは頭の中を駆け巡り、ついにこの晩は一睡もできないまま夜明けを迎えてしまった。

ちょうど出社日であった坂間はそのまま会社へと向い、午前中の会議をこなしたのだが、その内容は殆ど上の空であった。気が付くと昼食の時間になり、周りの者は三々五々食事に出掛けて行く。坂間は気の置けない仲間である今西と吉田を誘っていつものテーブル割烹に向った。本日の煮魚定食を頼んでお茶を啜りながら坂間は彼等に先日来の話を始めた。

「…なあ、ちょっと信じられないような与太話だろ。笑っちゃうよな。」

坂間のこんな言葉にもなぜか二人は笑わなかった。

「おい、坂間。だってお前その手紙持ってんだろ。」と今西。

「夢だったらその夢とピッタリ符合するような手紙が来るなんてことはないわな。」と吉田。

「おい、お前等本気にしてんのか?今時仙人だって!そんな馬鹿なことあるわけないじゃないか。きっと手の込んだジョークだよ。」

今西が声を落として言う。

「実はな坂間。今お前から聞いた話を俺は笑えないんだよ。お前も知ってはいると思うが新宿に塚越さんっているだろ。今はまた営業に戻っているがかって所長、支社長と歴任して『リクルートの達人』と呼ばれた人だ。彼からその岩崎某って人だか、仙人だかの話を聞いたことがあるんだ。仮に彼のことを仙人と呼ぶとしよう。この仙人は塚越さんを訪ねて、リクルートの極意を聞こうとしたらしい。」

「その先は俺が話すよ。」吉田が続ける。

「極意なんてものは一言で語れるもんじゃないよな。ところが塚越さんはこの仙人の前に立つと頭の中にからいろんなものが吸い取られるような気がしたらしい。実際ふと、我に返るともう目の前には誰もいなかった、っていう話だ。」

「すると何か。お前等この話は本当の話だって言うのか?」

「俺等よりもお前の方がそう思っているんじゃないのか?」今西

「いずれにしても今晩がその達人対決とかいうヤツなんだろ。行って見ようぜ。」吉田も言う。

「わかった。お前等がそういうなら行ってみるよ。当然お前等も一緒に行ってくれるんだろうな?」

「赤坂のワインバー山崎か。あそこは坂間のお気に入りの店じゃないか。ひょっとすると何かのサプライズパーティーだ位の気楽な気持ちで行った方がいいぞ。」

「お前等、人のことだと思って気楽に言ってくれるぜ。いずれにしても俺は15分前には行くつもりだ。現地で待ってるよ。」

タイミング良く3人の前に煮魚定食が並ぶ。皆一斉に箸をつけるが坂間の食はいつも程進まなかった。

ワインバー山崎は赤坂の街の喧騒を離れた場所にある知る人ぞ知るといった趣の店である。

赤坂通りの五丁目交番の角を氷川神社の方に向い、落ち着いた一角に建つ瀟洒なマンションの1階にその店はある。

「なんだってまた、山崎なんだ?」

呟きながら店のドアをくぐった坂間の前にはいつもの山崎と変らぬ光景が広がっていた。

(なんだ、やっぱりガセかよ。手の込んだことしやがって。)

怪訝な顔で店の中を見回す坂間の視線の先にオーナーマダムの幸子の顔があった。

「坂間さん、いらっしゃい。」

彼女はテーブルの間を流れるように移動して彼のもとにやってくると、その左手に自らの腕を廻して彼のお気に入りのテーブルへと歩き始めた。

「いよいよ今晩ね。頑張って。坂間さんならきっと大丈夫。」

坂間は思わず立ち止まり、幸子の顔を覗き込む。

「幸子さん、何のことだい。」

「何いってるの。さあ役者が揃うまで貴方の席で寛いでいてちょうだい。」

彼女は坂間をいつもの席に座らせるとワインセラーの方に、目配せをした。するとそれが合図のように、ワインセラーの扉が音もなく開き、そこから一人の男が坂間に向って歩み寄ってきた。

「仙人…。」

坂間は言葉を失ったまま、彼が席につくのを待った。

「おう、坂間、待っておったぞ。ウシャシャシャ。今日はお主にとって初めての鉄人、もとい達人対決じゃの。どうじゃ、覚悟は?」

「ちょっ、ちょっと待って下さい。先生、いや仙人。とりあえず仙人からのお手紙をいただいて今日はやって来ましたが俺には、いや私には何のことだかさっぱりわかりません。特設スタジアムなんてどこにもないし…。」

「まあ、特設スタジアムちゅうのは、今回はやめた。なんせ予算があるからのう。幸ちゃんはなかなか勘定はシビアじゃ。それと、この間も行ったであろう。わしのことを仙人と呼んではいかん。CIAや、ホリプロ辺りの連中に聞かれたりしたらことじゃからのう。」

「しかし…。」

「わしのことは岩崎さんでよい。なんなら清美ちゃんでもよいぞ。一応この国でのフ ルコース、じゃなかったフルネームは岩崎清美じゃからの。」

「わかりました岩崎さん。しかし私には今日の主旨がいまだによくわかっていないんですが。」

「マイペンライじゃ、わが弟子よ。実はわしもあまりディテールは考えておらん。」

「えっ?」

「ようは‘『明日のために』その1’じゃ。お主は『ワインの達人で』あろうが。今日お主はその持てる技の総てを発揮してギャラリーをメッチャクチャ感動させるのじゃ。」

「先生、いや岩崎さん。でもそれじゃあ何で対決なんですか?」

「よいところに気付いたの。実は今日はお主の対戦相手には『お魚の達人』っつうのを用意しておる。なんか間が抜けたネーミングじゃろ?」

「その『お魚の達人』はやっぱり岩崎さんがリクルートしてきたんですか?」

「いや、そうではない。わしのように日本に有望な仙人候補をリクルートにきているのは一人ではない。今日のお主の対戦相手はわしの仲間の漫画仙人がリクルートしてきた男じゃ。」

「漫画仙人ですかー、なんですか、そりゃ?」

「こら、言葉に気をつけねばいかん。漫画仙人はかって日本の漫画の黎明期の頃、ジャンルを問わぬ漫画の達人として、この国の出版業界で隠然たる力を持っていた男じゃが、その道を極めた結果、仙域に達したと認められ、今では仙人界のホープじゃ。」

「へー、そうなんですか。しかし漫画と仙術とどう関わってくるんですか?」

「ほうっ、お主も少しは勉強したと見えるの。仙術などという言葉をつかうなんぞ、結構お茶目じゃの。うしゃうしゃ。よいか、総ての道にはその道の達人がおる。そしてその達人達のうち万人に一人が辿り着けるかどうかという領域が仙域じゃ。さらにその仙域に辿り着いた者の内からわしらの様に品性の優れた者だけが仙人になれるんじゃ。」

「品性ですか?…」

「うむ、そうじゃ。わしを見ればよくわかるであろう。ぬふふふ。」

「はぁ…。」

「まぁ、それはそれとして漫画と仙術の関係じゃったな。」

「はい。」

「お主の記憶の中にもあろう。長い間人気を誇った漫画で、ある特定のギャル、いや、キャラじゃったかの、が作中で死ぬとする。するとファンの連中は葬式だ何だと騒ぐ だろう。

中には作者に生き返らせろ、なんていってくる奴もいるらしい。つまり、漫画というもんは極めると極めて大きな社会的影響力を持つものなのじゃ。」

「はぁ…。」

「まだ、パンピーであるお主等には知る由もないが、実は日本の政治経済はおろか宗教界、皇室に至るまで漫画の隠然たる影響の支配下にあるといっても、実は過言ではない。」

「ほうっ…。」

「まぁそれはそれとして、お主の前にこれから現れる漫画仙人はごく普通のおっさんのなりをしておる。この国では萩原英昭と名乗っておるから、お主も萩原さんで通すのじゃぞ。」

「はぁ、わかりました。でも先生、岩崎さん。私のワインの達人としての技を総動員してギャラリーを喜ばすってことですが、そのワインはどこにあるんですか?」

「ぬふふふ、安心せい、お主は本日このワインバー山崎のワインセラーの中にある総てのワインを自由に使ってよいことになっておる。この店のワインのストック、保存状態はお主も知っての通り、東京でもぴか一のはずじゃ。」

「えっ、ここのワインを全部自由に使っていいんですか?本当に!?」

「うむ。」

「わかりました。ここのワインが私の思うとおりにできるのなら、例え何がやってこようと唸らせてみせます。いや、泣かせてみせたっていい。」

「よし、その意気じゃ。」

その時、幸子が岩崎仙人の横にすっと音もなくすり寄ると

「岩崎さん、萩原さんたちがお見えになりましたわ。」

と囁いた。その声が終わらぬうちにこの店のチーフソムリエの佐々木冨美子が、二人の男を彼等の席に案内してきた。岩崎の目が一瞬厳しいものになり、坂間の身にもあらためて緊張が走った。

(うーぬ。萩原の奴め、フーミンにベタベタくっつきおって。幸ちゃんもフーミンも両方ともわしが目をかけておるのに、本当に遠慮のない奴じゃ!)

仙人の胸中を知らぬ坂間は、自分も精一杯厳しい顔をしようと努力する。

「よく来おった。萩原。わしゃ、てっきりお主が尻尾を巻いて逃げ出すかと思っておったぞ。」

「何の岩崎ごときに遅れを取るわしではないわ。今日はうぬに思い知らせてやるぞ。」

二人は傍にいる者が思わず呼吸をするのも忘れる程の迫力でお互いの眼光を絡ませあった。

と、途端に二人はお互いを指差しながら大笑いを始めたのであった。

「まぁ、ほんとに久し振りじゃのう。会いたかったぞ。」

「わしもじゃ、日頃大楠山の庵に居って、狐狸の類相手に漫画を語るのにもそろそろ飽きてきておった。丁度そんな折にお主からの書状が届き、新しい達人を見つけたというので今日は喜び勇んで駆けつけた。」

「おう、そのことよ。今回の男はちょっとしためっけもんじゃ。ワインの道では多分この男に匹敵するものは人間ではそうはいないはずじゃな。今日はお主のところで修行しておる、あの松浦とかいう奴とぜひ手合わせをさせたくてな。ぬふふふ。」

「相変わらずエッチっぽい笑い方をする男よのう。まあ奴もわしのところで日々修行に励んでおるゆえ、なまじの相手にはおさおさと引けを取ることはあるまい。いずれにしても今日は楽しませて貰えそうじゃ。」

その時漫画仙人、萩原の後ろにうっそりと立っていた男が声を出した。

「萩原さん、仕込みにかかってよろしいでしょうか?」

「ん?そうじゃったの。まあそんなに急ぐこともない。まずは皆に挨拶するのじゃ。」

萩原は男を自分の横に立たせると、視線を回りに走らせながらゆっくりと言う。

「この男が『お魚の達人』松浦じゃ。もともとは食い意地の張った、釣好きの男であったが釣は下手だった…。」

「せっ、先生。」

「おう、悪かったの、本当のことを言ってしもうた。しかし、わしの所にきて厳しい修行を重ねておる今、太公望もかくや、というまでに精進しおった。いまや全国津々浦々の高級料亭からのラブコールでうるさくてかなわぬは。」

言葉もなく、松浦を軽く睨む感動仙人。

(うーむ。ちょっと分が悪いかのう。確かに坂間はわしが見込んだ男だがまだ修行はさせておらん。しかし、この段階でおめおめと引き下がるようではこれからの修行をさせる価値もないっちゅうもんじゃ。しかし、漫画仙人め、結構ちゃっかりと押さえるところは押さえておるのう。)

再び場がピンと張り詰めそうな気配になった時、

「さあさあ、皆さん立ってないで座って下さいな。用意ができるまでゆっくりなさって。」

その幸子の声で雰囲気がすっと和んだ。日頃はこの店のワインの総てを取り仕切る冨

美子も今日は幸子のアシストに徹して、その場の者をあらためて所定の席へとつかせた。

時代を感じさせる重厚なマホガニーの丸テーブル。その直径は3メートルはありそうだ。いつもはこのテーブルには客はつかない。このテーブルに相応しいボリュームで四季折々の草花が活けられた花器が載っているのだが、今日はそれが取り払われている。

そのテーブルを8脚ほどの椅子がゆっくりと囲み、入り口から見て一番奥に感動仙人岩崎、漫画仙人萩原が並んで腰を下ろし、岩崎の隣に坂間が、萩原の隣に松浦が並んだ。

「それでは岩崎さんと、萩原さんはゆっくりなさってて下さい。坂間さんと松浦さんは準備がおありでしょうからこちらにどうぞ。」

松浦はすっと立ち上ると厨房の方へと歩いていく。

「ちょっと待って下さい。僕は準備ったってなんにも用意なんかしてきてませんよ。」坂間。

「だから言ったじゃろうが、本日ここ山崎のワインは総てお前の自由じゃ。また必要な物はこのフーミン、じゃなかった佐々木さんに言えば、何でも用意してくれるはず

じゃ。何の心配もいらん。ぬははは。」

呆然としている坂間の手を取って立ち上がらせると、チーフソムリエの佐々木は彼をワインセラーへと誘った。

ワインバー山崎のコレクションは膨大であった。坂間もこのワインセラーの隅から隅までを自分の納得のいくまで見て回るのは始めての経験であったが、こうしてみると空恐ろしい物を感じた。

(一体これだけのコレクションをどうやって…?オーナーは一体何者なんだ。この一角にあるだけで優にビルの一つや二つは建ってしまう。ましてやここの全部だなんていったら…。)

坂間の驚きは当然と言えば当然のコレクションが目の前に広がっている。

しかし、このコレクションの価値をこれほど正確に短い時間に把握できる坂間も実は只者ではない。

坂間の前に佐々木が立ち、彼はふっと我に返った。

「これをお召しになって下さい。」

彼女の手にしたトレーにはソムリエの正装がきちんとプレスされて載っていた。

再び彼が先程のテーブルに戻ると、萩原の傍らには純白の割烹着を身につけた松浦がじっと立って坂間を見つめている。そしてテーブルの8脚の椅子には総て人が座っていた。

「おい、お前等来てくれたのか?」

「当たり前じゃないか、どうやら大変な勝負になりそうだな。」今西が笑った。

「やはりガセじゃなかったな。こんなところに立ち会えるなんて友人冥利に尽きる。死ぬ気でやってくれ。」と吉田。

「うしゃうしゃ。まあまあ友人同士の話はそんなところにしておいてもらおうか。今晩このワインバー山崎の客はわしらだけじゃ。幸ちゃんも、フーミンも今日は客となってこの二人の『達人対決』の立会いを頼みたい。」

「はい。」二人が同時に答える。

「他の皆さんもよろしいかな?」

テーブルの皆が一斉に微かに頷く。

「それでは本日のこの対決にあたってのルールを漫画仙人、萩原氏の方から説明して貰おう。」

「うむ、それでは皆さん、ようこそこの『達人対決』にご列席いただいた。既に今日 この場がどのような意味を持つものかは皆さんも二入の達人たちから、あるいはわしか感動仙人、岩崎氏から聞いておると思うので細かい説明はしない。ようはこの二人がそれぞれ達人の域に達している技を用いて、いかに我等を感動の坩堝に叩き込むかの勝負じゃ。」

ここで萩原はあらためて皆を見渡すと、この場の全員と、二人の達人に同意を得るようにゆっくりと続けた。

「ただし、知っておると思うがこの勝負に勝った者のみが我々の後を襲う者としての修行を進めることができるのじゃ。負けたものは次回何時になるかわからないチャンスのために自ら修行を続けるも良し、あっさりとこの道をあきらめるのもまた良しじゃ。

このような過酷な勝負ゆえ、この勝負は三番勝負とする。三回の対決、各回毎に皆は勝者を書いた紙をここな幸ちゃんに渡していくのじゃ。何か質問はあるかな?」

「仙人!」

「おお、なんじゃな?塚越さん。」

「つまり、この勝負では松浦さんが魚で料理を作り、坂間さんがそれにあったワインをサービスする、ということですか?」

「うむ、そうじゃ。」

「しかし、それでは対決とはいってもあまりにも条件が違いすぎるのではないですか?松浦さんは自分で好きな素材をに様々に手を加えることができる。一方、坂間さんはこの店にあるワインを選んでサーブすることしかできない。これは坂間さんにとって条件が悪すぎる。」

「ふふふふ。そう思われるか。」

「ちょっと待って下さい。」

坂間が割って入る。

「塚越さん、いや他の皆さんも聞いて下さい。確かに料理をすることが無限の可能性を持つのに較べたら、それにワインを合せるのは選択の幅が少なく見えるかもしれない。しかし、その無限の広がりを持つ料理に対して、最適な伴侶を最高の状態で提供する。これは簡単なようで実は大変なことだと私は自負しています。料理が勝つのでも、ワインが勝つのでもない最高のマリアージュを創り出す。これが私の生きがいです。」

「うしゃうしゃ、よくいうた。どうじゃな塚越さん」と感動仙人。

「わかりました。」

「他の皆さんもよろしいかの?」

皆、一斉に頷いた。

「それではここで本日の審査員を紹介しておくことにしよう。審査員は我々全員じゃがな。まずわしは仙人をやっておる岩崎じゃ。今日ここにお集まりの方々は既にご存知、あるいはお気づきじゃろうから敢えて隠しはせぬ。しかしくれぐれも他言は無用じゃ。

そしてわしの隣におるのが、やはり仙人をやっておる萩原じゃ。」

と、見ると、萩原は隣の佐々木の耳元に口を近付けて何やら囁いている。

「おいっ、漫画のっ!」

「痛えっ!何でいきなり蹴飛ばすんじゃ。このエッチ仙人め。」

「ばか者!今お主のことを紹介している最中じゃろうが!」

「おお、そうか、あらためて萩原じゃ。よろしく。」

「ったく、しょうがない奴じゃ。萩原の隣におるのがこの店のチーフソムリエの佐々木冨美子さんじゃ。」

佐々木がテーブルを見渡し、軽く頭を下げる。

「その隣が今西君と吉田君。ともに坂間の会社での同僚じゃ。」

二人が揃って

「よろしくお願いします。」

「さて、その隣が塚越さんじゃ。わしもかって彼に教えを請うたことがあるほどの『リクルートの達人』じゃ。彼も坂間と同じ会社の人間だ。しかし、今は故あって、自らその技を封印しておる。」

「塚越です。先程は失礼しました。今日は私もこの対決を楽しみにしてます。」

「塚越さんの隣が細木さんじゃ。うむ、久し振りじゃの。」

「仙人、ご無沙汰しております。最近とんと修行の方ではお目にかからず失礼しております。」

「まあ、よいよい。最後にわしの隣りがこの山崎のオーナーマダム幸ちゃん、山崎幸子さんじゃ。以上8名が今日の対決の審査員を務めることになる。くれぐれもよろしくな。」

「岩崎さん。」

ここで今西が声を上げる。

「なんじゃ?」と、岩崎。

「今日のこの対決の趣旨はわかったのですが、審査員にやや、偏りがあるんじゃない ですか?少なくとも僕や、吉田、塚越さんは会社の仲間だし、坂間自身もこの店の常連だ!」

「なんだ、そんなことを気にしておるのか?しかしまぁ、それも無理はないのう。じゃがな、お主も、いやここに座っておる誰もが一旦勝負が始まればそんな心配は無用じゃと気付くはずじゃ。これから繰り広げられる対決はそんな個人の感情が入り込むほど低いレベルの戦いでは断じてない。きっと純粋な感動がどんなものかを思い知ることになろうぞ。」

「わかりました。仙人がそうまでおっしゃるのならば、そう思って私も一切の個人的思いは断ち切って審査をさせていただきます。」

「うむ、必ずやそうなるはずじゃ。」

岩崎は坂間と、松浦を交互に見据えて、言い放った。

「さあ、勝負じゃ。準備にかかるがよかろう。まずは松浦が自分の技を、そしてそれを坂間が迎え撃つ形での三番勝負じゃ。両者ともその持てる力を精一杯発揮せい!」

松浦は厨房に、そして坂間は厨房へと歩み去った。

(うしゃうしゃ、今晩も旨いもんが喰えそうじゃ。しかも『酒は旨いし、ねぇちゃんはきれいだ』で言うことはないのう。)

「しばしの時が流れたが、テーブルの上には会話も流れていない。これからの対決への期待と緊張のみがいやがうえにも高まっている。

その時、

「お待たせしました。」

松浦がワゴンを押しながら厨房から現れた。山崎のよく訓練されたウェイター達がそこから、皆の前に白い皿をサーブしていく。

「まず、皆さんに召し上がっていただくのは、一年の内、十一月の大潮の晩にしか姿を現さない相模湾の深海鮫です。体長6メートルにもなるこいつは、萩原仙人の庵から程近い秋谷の浜に産卵のために寄ってくるらしいのですが、地元の漁師達も決して手を出さない。こいつは、代々湘南に伝わる古文書の中で大変な美味であると伝えられていましたが、今生きている人間で実際にそいつを食した者はまずいないはずです。今回はその鮫のいわゆる砂擦りの部分のみを極上のグレープシードオイルと、三十年物のバルサミコ、岩塩のみでカルパッチョにしたものです。まずは召し上がってみて下さい。」

まず感動仙人がフォークを伸ばしてその半透明の一切れを口に運ぶと、

「うっ、旨い…。」と叫ぶと一瞬放心したような表情を浮かべる。それを見て、他の審

 

査員たちも一斉にそれに続くと

「まぁ!」

「何だ、これは!」

「旨い、旨すぎる!」

「大変おいしゅうございます。」

「くーつ、泣ける旨さだぞ、こいつは」

と、口々に感動の言葉を上げ始める。漫画仙人も

「わしも長い間大楠山の麓に住むが実際に口にするのはこれが初めてじゃ。なるほど言い伝え通りじゃ。この一皿で寿命が何年も延びるようじゃ。」

「まあ、仙人ったら。もう寿命は充分おありでしょ。でも、おっしゃるのはわかるわ。」

佐々木が続ける。しかし、その後は皆、喋る時間も惜しむかのように黙々と料理を口に運ぶのだった。そこへ、坂間が見慣れないワインを持って現れた。

「お待たせしました。私も先程松浦さんに本日の料理は総て試食させていただきました。素晴らしい、まさに口福ともいえる逸品揃いです。しかし、この最高の料理の感動を何倍にも増幅するのが完璧なワインとのマリアージュです。まずはこの一皿のた

めに存在するかのような組み合わせを楽しんでいただきましょう。」

坂間はおもむろにラギオールのソムリエナイフで封をカットし、おもむろに全員のグラスに注いでいく。

「今日は敢えてどなたにもあらかじめテイスティングはしていただきません。そしてワインの銘柄、ビンテージ等についても最後までお伝えしません。サーブさせていただくワインそのものの力を一切の予断なしで味わっていただきたいのと、それが料理と組み合わされたときに何が起こるのかを体験していただきたいからです。

それでは早速召し上がっていただきましょう。」

その場の全員の腕がグラスに伸び、最初の一口を口に含む様を坂間はじっと見つめていた。

いきなり涙をこぼし始めたのは山崎だった。

「こんなことってあるのかしら、私は今まで自分の店のコレクションには絶対の自信を持っていたし、わかっている積りだった。もちろん今自分が口にしているワインの銘柄ぐらいはわかっているわ。でもこの温度、そして香りを立たせるためのこのグラスのセレクト。そして何よりもこの料理とのたとえ様もないマッチング。素晴らし過ぎる。

この素晴らしさを今までフプロとして、この何分の一も提供できていなかったことに思い知らされてしまった。この最高の味覚の幸福は、ある意味では私には残酷すぎるプレゼンテーションだわ。」

「まぁ、そう自分を責めるもんじゃない。そもそも坂間を紹介してくれたのは、幸ちゃん、あんたじゃぞ。正直なところ彼には初めて逢った時から強烈な後光が感じられたのじゃ。最近ではオーラとでも言うのかの。人間にはどんなに精進しても及ばぬ領域というものがある。それを超えたところに仙域があり、その住人としてわしら仙人がいるわけじゃ。

坂間は厳しい修行次第ではそこへと足を踏み入れることのできる資質を持った達人じゃ。

幸ちゃんやフーミンが天才であるとしてもだ、仙域を目指す達人とはそもそも比較できるものではないのじゃよ。むしろこれからの彼の技をじっくりと楽しむぐらいの気持ちがないと、とてもこれからの勝負を見届けることなんかできんぞ。」

感動仙人の言葉に山崎だけでなく、皆大きく頷く。しかし誰一人としてグラスと皿の往復から逃れられる者はいなかった。ただひたすら幻の魚と、そのために生まれてきたかのようなワインの創り出す絶妙のハーモニーに翻弄され続けるのだった。

やがて、全員の皿の上の料理が総てなくなり、二杯目のワインもなくなるまで大した時間はかからなかった。

「いかがでしたか?」

坂間が皆を見渡して低いが自信溢れる声で一言問うと、まず最初に口を開いたのは今西だった。

「いかがって、スゲェよ。俺はこんなの初めてだよ。まず魚の達人の料理を食べてびっくりした。説明を聞いてなきゃ一体何だかはわからないが、とにかくひたすら旨いって感じだ。次にお前のワインだ。こりゃぁワインのボトルでいきなり横っ面を殴りつけられたような気がした。べらぼうに旨い。そして次にまた料理を口に運ぶと、今度はボトルどころじゃない。金属バットで頭をかち割られるような気がした。魚がさっきよりもっと旨い。そしてまたワイン。するってえとワインがまた死にそうに旨いじゃねえか!一体お前は何をしたっていうんだ!」興奮してまくし立てる。

「うーん。二人とも本当にいい仕事をしている。互いが互いをとんでもない次元に引き上げているように見える。」

細木が呟く。塚越、吉田は互いになにごとか喋りながら、何度もグラスに手を伸ばし、そのたびに何度も空になっているのを思い出し、がっかりするような素振を見せてい る。

「さあっ、それでは第一回目の対決。どちらの達人が勝利をもぎ取ったのかのう。先程皆に配ったカードに名前を書き、マダムからまわす箱の中に入れるのじゃ。」萩原のこの言葉で皆、はっと我に返ったような表情をした。

おもむろにカードに勝者の名を書いたメンバー達は、山崎の持つ小箱の中にカードを入れていった。

二回目の対決は既に絶滅したと信じられていた青ギスを、松浦がどのような技を使ってかはわからないが準備し、三品の料理に仕上げていた。青ギスの細造りを高知のポン酢と紅葉おろしで食すもの、風干しをさっと炙ったもの、そしてエスカベージュに仕上げたもの。

どれをとってもキスの味わいを究極まで引き出したものだった。そしてそれに合せる坂間のワインはたった一種類だった。普通料理が異なればそれに最適なワインは異なる。しかし坂間は松浦のキス料理総ての魅力をこの一本で完璧に引き出してしまった。さしもの松浦もこれには驚いたらしい。坂間に対する眼差しに明らかに畏敬の念が込められはじめた。

この場の審査員達はすでに言葉も無いようだった。

いよいよ最後の勝負の三回戦。

松浦が大きな皿を持って現れた。

「相模湾のみならず、日本近海でも滅多に水揚げされることのない。『竜宮の使い』のグリルです。あしらいには仙人の庵の庭先に自生する天竺唐草の若芽のマリネを添えてあります。どうぞそのままでお召し上がり下さい。」

「ほう、竜宮の使いとは!図鑑では見たことがあるがまさか本物を食べられるなんて。」

細木が呟きながら、添えられた箸を伸ばす。それが合図のように皆が一斉に箸を伸ばす。

「もう、他に言葉がない。旨い。」と、吉田

「この食感は何に例えて良いかわからん。強いて言えば、崑崙山の人の決して入らぬ尾根に住む麝香鹿の腹の部分か!」感動仙人が言う。

山崎、佐々木に至ってはまた涙を流すばかりだ。

「世の中でおいしいというものは何をおいても食べてきたつもりだ。しかしこれは何という味だ。まさに魔味といっても良い。これからはこの味を求める人生になってしまうかも知れない。」塚越がうめきにも似た言葉をようやくのように吐き出す。

そこに坂間が三度目のワゴンを押して登場した。ワゴンの上にあるのは先程までとは違い、ボトルではなく、重厚な輝きを放つデキャンタが載っていた。

「いよいよ今晩の最後のワインです。最高の料理に合せた最高のワインです。このワインは長い時間をかけて熟成されたものですが、今晩はその眠りから覚めてもらうために、ある特殊な方法でデキャンタージュしました。まさにこの時、この料理のための最高の状態です。さあ、ぜひ召し上がって下さい。」

坂間が総てのグラスに注ぎ終わるのを待てないかのように皆グラスを口に運んで行く。

「心臓が止まりそうだわ。」佐々木。

「坂間、お前は既に仙域ではなく、神の領域にまで足を踏み入れているんじゃないのか!」今西が坂間を見据える。

「お前は、一体本当は何者だったんだ、と訊きたくなるよ。」と、吉田。

山崎は相変らず、目頭を押さえるばかりだ。

漫画仙人は呟く、

「感動め…。」

感動仙人は坂間に向けて満足げな笑みを浮かべるばかりだったが、

「さあ、そろそろ最終対決の結果をそれぞれが決めた頃じゃろう。幸ちゃんまた頼むぞ。」

山崎が皆からカードを受け取ってまわり始めた。

「では、今日の対決。これから勝者を発表する。よろしいかの?」感動仙人が宣言する。

「待って下さい。」松浦がここで皆が驚くほどの声を上げた。

「この対決、勝負の結果はもうわかっています。私も充分修行してきたつもりでした。多分今日の相手が坂間さん以外の人であれば、誰がきたって負けるつもりはありませんでした。しかし、今日はレベルが違い過ぎる。感動仙人、どうか武士の情けと言いますが、開票なんかしないで下さい。自分の勝敗の結果は自分でもようく、わかっているつもりです。」すると、お主は棄権するというのか?」感動仙人が訊ねる。

「いえ、棄権ではありません。負けだと申し上げているのです。坂間さんこそがこの世界で最高の『ワインの達人』です。」

松浦は坂間を、力を込めて指差した。

「この私の考えに異存がある方はどうかおっしゃっていただきたい。多分そのような方はいらっしゃらないはずですが。」

松浦が皆を見渡す。その場にいる坂間と松浦を除く全員が微かに頷く。松浦は皆に深々と一礼するとゆっくりと外へと通じるドアをくぐって姿を消した。

「うーむ、今日の勝負、多分今、この地球の上で繰り広げられる最もレベルの高い戦いであった気がする。しかし、中でも坂間のレベルは正直なところ我々の思惑を遥かに超えたところにあったようじゃ。」

皆が一斉に頷く。

「お主こそ真の『ワインの達人』じゃ。」

「ありがとうございます。」坂間が続ける。

「正直なところ、今日の私は何かに憑かれたようでした。松浦さんの料理を試食したところからそのことを感じていました。ワインセラーに入ると、ワイン達が私に語り

かけてくるのです。今日は私を使って下さい。今度は私をこうして下さい。と。」

「うむ、見事じゃ。」漫画仙人が短く言う。

「それでこそ本当の『ワインの達人』じゃ。感動仙人が間髪を入れずに続ける。

いつしかテーブル中から声があがり始めた。

「『ワインの達人』、『ワインの達人』、『ワインの達人』、『ワインの達人』…」

坂間はこれからのさらなる精進を自らの胸に誓うのだった。

 

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ワインを楽しみながら異業種交流の会

人生のソムリエ 坂間明彦
人生のソムリエ 坂間明彦

1998年5月、WINETはスタートしました。

以来、今日まで毎月継続して開催し、2013年6月には180回,15周年記念ワイン会を、2015年1月には200回記念ワイン会を開催いたしました。

これもひとえに、参加者の皆さま、レストランなどの関係者のご支援があってのことと感謝しています。

WINETに参加することで素晴らしい仲間が増え、ワインのちょっとした薀蓄が学べ、人生が豊かになったと言われるような、そんな会でありたいと思っています。 

<<『中ちゃんの目指せ!幸せ配達人』に出演しました>>

「目指せ!幸せ配達人」というネット番組に、WINET主宰の坂間明彦が出演いたしました。毎月開催しているワイン会について語りましたので、よろしければご覧ください。

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You Tube http://youtu.be/H7QOmOxP9yw

ニコニコ動画 http://www.nicovideo.jp/watch/1384479271


第31回メドックマラソン大会に参加しました

フランスのワイン名産地ボルドーで行われたメドックマラソンに参加しました。ブドウ畑に点在するシャトーを巡りながら約1万人の参加者が走る「フルマラソン」です。シャトー毎にある給水ポイントでは水とならんでワインのサービスがあり、楽しく参加しました。もちろん?完走はできませんでしたが、みやげ話はたくさんありますので、関心がある方はお知らせください。  メドックマラソン&ワインツアー報告のニュースレターを作成しましたのでぜひご覧ください。↓